皆さん、こんにちは!
麹の仲間たちの長谷川です。
以前の発酵コラムでは「麹とは何か?」について書かせていただきました。今回は「麹菌とは何か?」について書いていきたいと思います。
麹とは穀物に麹菌を繁殖させたものをいいます。麹は日本の伝統的な発酵食品である味噌、醤油、日本酒などを作るときに欠かせないものです。そのため、麹がなければ和食や今の私たちの食生活は築かれなかったと考えられます。
そんな重要な麹ですが、麹は麹菌の存在がなければ作ることができません。
「日本の食文化を支える食材が麹」だとすると、「麹菌は日本の食文化を根幹で支える微生物」ということができます。
では、この日本の食文化の根幹を支える麹菌とは、一体どんな微生物なのでしょうか?
今回は麹菌についてわかりやすく、簡単に解説していきたいと思います。
麹菌は日本を代表する微生物(国菌)
2006年(平成18年)に麹菌は日本醸造学会により日本の国菌に認定されました。
日本醸造学会は、醸造に関する学術研究の向上を図ること目的に設立された学術団体であり、公益財団法人日本醸造協会が主宰しています。
麹菌が国菌に認定された主な理由の一つは、麹菌が古来から日本の豊かな食文化に貢献してきたことにあります。
麹菌は、日本の伝統的な発酵食品である、味噌、醤油、日本酒、酢、本みりんなどを作るのに必要不可欠な微生物です。もし麹菌の存在がなければ日本の食文化(和食)は築かれず、今の私たちの食生活も異なっていたと考えられます。
「麴菌をわが国の「国菌」に認定する-宣言-」
国菌とは国が定めたものではないの?
「日本の国菌は麹菌である」ということを認定したのは日本醸造学会であり、国が認定したわけではありません。それゆえ、日本の法律で定められているものではありません。
同じように学会で認定されているものには国鳥、国蝶などがあります。
日本の国鳥は「キジ」であり、1947年に日本鳥学会が定めました。キジは日本にしか生息していない「日本固有種」であり、桃太郎伝説に登場したり、古くから日本人に親しまれていたことから国鳥に選定されたようです。
日本の国蝶は「オオムラサキ」であり、1957年に日本昆虫学会が定めました。オオムラサキは姿が美しく、全国に分布しており、身近な存在であったことから国蝶に選定されたようです。
日本を代表するものを調べることで、日本がどのような国かということがわかります。
国菌として認定している麹菌
日本醸造学会が国菌として認定している麹菌は以下の4種です。
- 学名:Aspergillusoryzae(アスペルギルス・オリゼー)(和名:黄麹菌)
- 学名:Aspergillus sojae(アスペルギルス・ソーヤ)(和名:醤油麹菌)
- 学名:Aspergillus luchuensis(アスペルギルス・リュウキュウエンシス)(和名:黒麹菌)と学名:Aspergillus kawachii(アスペルギルス・カワチ)(和名:白麹菌)
学名って?
学名とは生物に付けられた世界共通の名前のことです。日本だけでなく、世界でも通用します。
和名とは日本で一般的に呼ばれている名前のことです。
学名は「属」「種」の組み合わせで付けられています。
種とは生物の基本単位のことで、属とは似た種をまとめてグループにしたものです。
「アスペルギルス・オリゼー」の場合、「アスペルギルス」が属名、「オリゼー」が種名になります。
アスペルギルス・オリゼー、アスペルギルス・ソーヤ、アスペルギルス・リュウキュウエンシス、アスペルギルス・カワチは種名は異なりますが、属名は「アスペルギルス」で同じなので、似た種であるということがいえます。
国菌として定められている麹菌4種
麹菌の種は何の発酵食品を作るかによって使い分けられています。
①アスペルギルス・オリゼー
和名を「黄麹菌(きこうじきん)」「ニホンコウジカビ」といいます。
主に清酒、味噌、味醂、麹甘酒などを作るときに使われます。
デンプンを糖に分解する力、タンパク質をアミノ酸に分解する力が強いのが特徴です。
※一般的に麹菌というと「アスペルギルス・オリゼー」のことを指していることが多いです。
②アスペルギルス・ソーヤ
和名を「醤油麹菌(しょうゆこうじきん)」といいます。
主に醤油を作るときに使われます。
タンパク質をアミノ酸に分解する力が強いのが特徴です。
醤油は塩水に醤油麹(大豆と小麦に麹菌を繁殖させたもの)を加えて、発酵させて作ります。醤油の旨味は大豆(タンパク質)が分解されたアミノ酸の旨味によるものです。
そのため、醤油づくりではタンパク質をアミノ酸に分解する力が強いアスペルギルス・ソーヤが使われることが多いです。
③アスペルギルス・リュウキュウエンシス、アスペルギルス・カワチ
アスペルギルス・リュウキュウエンシスは和名を「黒麹菌」、アスペルギルス・カワチは和名を「白麹菌」といいます。
主に焼酎、泡盛を造るときに使われます。
黒麹菌、白麹菌はクエン酸(酸っぱい)を生産するのが特徴です。
クエン酸を生産することで、温かい九州や沖縄でも雑菌による腐敗を防ぐことができ、安定したお酒を作ることができるようになります。
白麹菌は黒麹菌の突然変異種として発見された麹菌です。
国菌として定められている麹菌はカビ毒を生産しない
アスペルギルス属の中には、アスペルギルス・フラバスというカビ毒を作るものも存在します。
しかし、国菌で定められている麹菌は、カビ毒を生産しないことがわかっています。
日本の発酵食品に使われている麹菌
麹菌とは麹を作るときに使われるカビの総称です(麹菌とは日本の発酵食品を作るときに使われるカビの総称でもあります)。
国菌として認定はされていませんが、麹菌は前述したもの以外にもあります。今回は、鰹節菌、紅麹菌をご紹介します。
※麹菌と似ていて紛らわしい言葉に「コウジカビ」があります。コウジカビとはアスペルギルス属のカビのことを指しています。
アスペルギルス・グラウカス
アスペルギルス・グラウカス(学名:Aspergillus glaucus)は鰹節を作るときに使われる麹菌です。「鰹節菌(カツオブシカビ)」とも呼ばれています。
鰹節は意外と知られていませんが、カビを使った発酵食品です。
モナスカス・プルプレウス
モナスカス・プルプレウス(学名:Monascus purpureus)は沖縄の発酵食品である「豆腐よう」を作るときに使われる麹菌です。「紅麹菌(ベニコウジカビ)」とも呼ばれています。
紅麹菌はアスペルギルス属ではなく、モナスカス属になります。同じカビの仲間にはなりますが、生物学的には違う微生物になります。
まとめ
毎日の食生活に欠かせない発酵調味料である醤油、味噌、米酢、本みりん、そして日本の文化と深く結びついている日本酒。これらは、麹菌の存在なしには作ることができません。
麹菌の存在、そして先人の日本人たちが、それぞれの発酵食品に適した麹菌を巧みに使い分け、日本の発酵食文化を築いてくれたお陰で、私たちは今、この豊かな食生活を楽しむことができています。
今回の記事を通じて、麹菌を少しでも身近に感じてもらえれば幸いです。
最後まで読んで頂き、誠にありがとうございました。
参考文献
- 日本醸造学会
https://www.jozo.or.jp/gakkai/about/ - 浜本哲朗・浜本牧子(著者)『Q&Aで学ぶ やさしい微生物学』株式会社講談社、2009年6月1日第2刷発行
- 中島春紫(著者)『日本の伝統 発酵の科学』株式会社講談社、2019年8月5日第5刷発行
- 「紅麹」と醤油や酒の醸造用「麹」の決定的な違い(東洋経済オンライン)
https://toyokeizai.net/articles/-/743859?page=3 - 北垣浩志(監修)『菌の絵本 こうじ菌』一般社団法人 農村漁村文化協会、2018年3月15日 第1刷発行
- 株式会社ビオック(監修)『麹検定 公式テキストブック 3・2級』株式会社ビオック、2024年4月10日
- 北本勝ひこ(著作者)『47都道府県・発酵文化百科』丸善出版株式会社、令和3年6月30日発行
- 中里厚美(著者)『醸造微生物の名前と性状』有限責任中間法人東京農業大学出版会、2009年5月10日初版第2印発行
- 一島英治(著者)『日本の国菌-コウジキンが支える社会と文化-』東北大学出版会、2017年12月25日初版第1刷発行
- 一般社団法人 日本発酵文化協会(監修)『発酵検定 公式テキスト』株式会社実業之日本社、2018年7月30日初版第1刷発行
- 麹菌を分類で考える 『国菌』のはなしも。(村井裕一郎note)https://note.com/ymurai_koji/n/n14abcfb0a144