麹甘酒を作るときの発酵温度と温度管理のポイントをわかりやすく解説

発酵コラム

皆さん、こんにちは。
麹の仲間たちの長谷川です。

麹甘酒を作るときの一番大切なポイントは温度管理です。

麹甘酒の発酵に適した温度は50~65℃その温度を保つことで、甘味がよく引き出された美味しい麹甘酒を作ることができます。

今回の記事では、麹甘酒作りにおける発酵温度と温度管理のポイントをわかりやすく解説します。

麹甘酒を作るときの発酵温度は何度にしたらいいのだろう?」「どんなことに気をつけて温度管理をしたらいいのだろう?」と疑問に感じている方は、ぜひ最後までご覧ください。

麹甘酒の甘さと発酵の仕組み

麹甘酒の甘さは、発酵の過程で生まれるブドウ糖の甘さです。

米麹はお米に麹菌が繁殖したものであり、麹菌はお米に繁殖する際にたくさん酵素を生産します。その酵素の中にデンプンを分解するアミラーゼと呼ばれる酵素があります。

麹甘酒はお米(ご飯)に米麹を加えて発酵させて作ります。発酵の過程で、お米と米麹自身のデンプンが米麹に含まれるアミラーゼにより分解されることでブドウ糖が生まれ、甘くなります。

麹甘酒が甘くなる発酵の仕組み

麹甘酒の発酵温度とアミラーゼが活発に働きやすい温度

麹甘酒の発酵温度は50~65℃になります。この温度はアミラーゼが活発に働きやすい温度のため、酵素分解の速度が大きくなります。またこの温度は乳酸菌や雑菌が繁殖できない温度でもあります。そのため、この温度を保つことで安全に麹甘酒を作ることができます。

麹甘酒の発酵温度を50~65℃に保つ理由

酵素の性質

麹菌が生産する酵素には、アミラーゼだけでなく、タンパク質を分解するプロテアーゼ、脂質を分解するリパーゼなどがあります。

酵素はそれぞれ活発に働きやすい温度があります。その温度を保つことで分解する速度が大きくなります。そして、酵素が最も活発に働きやすい温度のことを最適温度といいます。

最適温度から離れていくと分解の速度は小さくなっていきます。

また酵素はタンパク質でできているため、温度が高くなりすぎると変性してしまい、酵素としての働きが停止してしまいます。これを失活といいます。一度失活してしまうと、温度を下げても再び酵素の活動は再開しないので注意が必要です。

アミラーゼの最適温度は62℃付近

麹の専門書である『麹学(編者:村上栄也)』にはアミラーゼの糖化温度について以下のように書かれています。

「麹中に含まれるアミラーゼの糖化温度は最適が62℃付近にあり、これ以上に温度が上がるにしたがって力が弱まり、72℃前後では液化作用のみで糖化力が非常に弱まり、それ以上になれば糖化力が破壊されてしまう。」

(村上英也(編著)『麹学』日本醸造協会、平成30年4月5日第6版発行、P445)

麹甘酒の発酵温度は50~65℃を保ち、70℃を越えることがないように注意しましょう。

温度管理で注意すること

70℃を越えないようにする

アミラーゼは70℃を超えると失活(活動を停止)していきます。失活後は温度を70℃以下に下げても酵素の活動は再開しないので注意が必要です。

麹甘酒の失敗で「甘くならなかった」というものがありますが、これは発酵させるときの温度が高くなりすぎてしまい、酵素が失活してしまった可能性があります。

麹甘酒を炊飯器で発酵させるときは、発酵の途中に温度を測るようにしましょう。温度が65℃を越えているようであれば下げるようにして、70℃を超えないようにしましょう。

70℃を超えても酵素はすぐに失活しない

私は麹甘酒作りで温度が70℃を超えてしまう経験を何度かしましたが、しっかりと甘味のある麹甘酒を作ることができました。

酵素の失活は70℃超えたら、瞬間的にすべてに起こるというものではないと思っています。70℃から段々と温度が上がっていくにつれて、また70℃を超える時間が長くなっていくことで、失活しやすくなっていく、失活量が大きくなっていくのではないかと思っています。

そのため、温度が70℃を超えてしまっても諦めないことが大切です。対応としては素早く温度を下げることをします。温度が70℃超えてしまった場合は、麹甘酒を別の容器に移し替える、素早くかき混ぜる、冷たい水を加えるなど、温度を下げる対応をしてみてください。そうすることで、失活を最小限に抑えることができると思います。

50℃を下回らないようにする

温度が50℃を下回っていくと、アミラーゼの働きが低下して、分解する速度が下がります。また、乳酸菌、雑菌の繁殖しやすい温度にもなってくるので注意が必要です。

乳酸菌の繁殖

40℃付近は乳酸菌が繁殖しやすい温度になります。

乳酸菌が繁殖すると、麹甘酒に酸味が出てくるため、「酸っぱい麹甘酒」になります。

多少酸っぱさを感じる程度であれば飲んでも問題はありませんが、低い温度で長い時間保温されていた場合は、雑菌の繁殖も進んでいる可能性があるため注意が必要です。

50℃を下回ったらすぐに酸っぱくなるわけではありません。温度が下がっていることに気づいたら55℃程度まで上げるようにしてください。

最後に

私は麹甘酒を作るときは55~60℃を目安に温度管理をしています。理由は、アミラーゼが働きやすいだけでなく、50℃を大きく下回る、70℃を超えてしまう可能性も低くなるからです。

麹甘酒作りでは温度管理が一番大切ですが、急用や忙しさで思ったように温度管理ができないことがあると思います。またついうっかりしてしまい温度が上がりすぎてしまう、下がりすぎてしまうということもあると思います。その時は気づいた段階で温度を50~65℃に戻すようにして、途中で諦めないでほしいと思います。

麹甘酒は何度か作ることで要領が掴めるようになり、作ることの精神的な負担も少なくなっていくと思います。ぜひ無理なく麹甘酒作りを生活に取り入れて、健康的で楽しく、自分らしい生活を目指してみてください。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

参考文献
1)村上英也(編著)『麹学』日本醸造協会、平成30年4月5日第6版発行
2)宇井 進治「甘酒を原因食とする食中毒に関する基礎的研究 第Ⅲ報 甘酒と食中毒細菌との関連について」『日本衛生学雑誌』14 (5)、1959年、717-723
3)「生物工学会誌 第97巻 第4号(2019)」倉橋敦「麴甘酒の成分・機能性・安全性」
4)「生物工学会誌 第96巻 第9号(2018)」倉橋敦「甘酒 ―世界に誇る日本の伝統甘味飲料」